大判例

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横浜地方裁判所 昭和54年(ヨ)1089号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

一、被申請人(訴外日産自動車株式会社ほか三社等の従業員をもつて組織された労働組合)は、昭和五四年九月一四日、代議員会において、被申請人組合厚木支部に所属する申請人ら七名を除名する決定をなした。除名の理由は「申請人らは、被申請人組合厚木支部の中に「労働問題研究会」、「明るい厚木部品をつくる会」等の組織をつくり、そのメンバーとして「ぶひん」その他のビラを配布、宣伝、アンケート調査等を通じて組織拡大活動の分派行為を行ない、組合の統制を乱した。「ぶひん」その他のビラの内容は、その多くが組合(自動車労連、日産労組並びに厚木支部)に対する誹謗と中傷にもとづく扇動であり、これにより組合の名誉を汚した。」というものであり、右が被申請人の組合規約一三条一項二号・三号に該当するというものである。

【判旨】

二そこで本件除名理由の存否について検討する。

1 本件疎明及び審尋の結果によれば、申請人らは、昭和四五年二月ころから、被申請人の組合活動、運動方針等に飽き足らず、組合の民主化と労働条件の向上を標榜して、「労働問題研究会」を結成し、職場新聞「ぶひん」を発行したり、ビラを配布するなどして活動していたが、昭和四八年九月ころから「明るい厚木部品をつくる会」と改称して、「じゆんかつ油」、「ぶひん」を発行したり、アンケート調査をするなどして、被申請人が、企業側の生産計画に無条件に協力し、賃上げ、一時金の要求も企業側の立場を考慮して簡単に妥結する傾向のあることを批判してその旨の記事を掲載し、あるいは大会においてその旨の発言をしていたこと、これに対し、被申請人組合の執行部は、申請人らは日本共産党神奈川県北部地区委員会厚木自動車部品株式会社支部に所属する共産党員であり、申請人らの活動は共産党の政治活動を忠実に則りこれを実践しているもので、労働運動に仮装した共産党の細胞活動であるとして忌み嫌つていたこと、他方、申請人らは、被申請人が民主社会党のみを支持し、選挙の際に組織を挙げて選挙活動をするとしてことのほかこれに反撥し、ことあるたびごとに強く批判していたこと、このような状況のもとに推移していたところ、前記のように昭和五四年九月一四日、代議員会において突然除名が決定されたこと、以上の事実が一応認められる。

2 被申請人は、申請人らの「ぶひん」その他のビラの配布、宣伝、アンケート調査等は日本共産党の組織拡大と被申請人組合支配のための分派活動であり、右は、組合規約一三条一項三号(組合の統制を乱したとき)に該当し、また、「ぶひん」その他のビラの中には被申請人を誹謗、中傷し、事実を歪曲して、組合執行部、組合役員と一般組合員を離間分断し、組合内に動揺、混乱を生じさせることを企図した不当なものが多く、右は、同項二号(組合の名誉を汚したとき)に該当すると主張するが、なるほど、前記1認定のように、申請人らが独自の政治的主張や思想的背景のもとに、被申請人(少なくとも被申請人組合の執行部)と異つた見解を持ち、被申請人組合の幹部を批判する立場で行動していたことは認められるけれども、右は思想、信条、支持政党等の相違に由来するもので、多様化した価値感や思想の併存しまた併存しうる現代においては、多種、多様の主義、主張の生ずることは避けられないところであり、この場合、直ちに一方のみを正とし、他方を邪として切り捨てるが如きは許されず、とりわけ民主的組織であるべき労働組合においては、組合員の自由な意見とその表示は最大限に尊重されなければならないものと解される。このような観点からみるとき、申請人らの言動が分派活動であつて組合の統制を乱したものと断定するには多大の疑問があるものといわざるをえない。また、申請人らの発行したビラ等の中には多少穏当を欠くとみられる表現が散見されるけれども、前記の観点に照らすと、未だ被申請人の名誉を汚したとまでは認めがたい。

3 仮に申請人らの前示の行為が被申請人組合の統制を乱しあるいは名誉を汚して、制裁の対象となるとしても、その程度は比較的軽微なものといわざるをえないところ、除名処分は労働組合の制裁処分としては最も重いうえに、疎明によれば、被申請人と申請外会社との間には、会社は組合から除名された者を原則として解雇しなければならない旨のユニオン・シヨツプ協定が締結されていることが一応認められるので、除名によつて従業員としての地位をも喪失することが必定とみられることから、このような事情のもとにおいて前記の理由によつて申請人らを除名することは著しく苛酷であつて、社会通念上到底これを容認することができない。

4 以上のとおり、本件除名処分は、前記規約一三条一項二号・三号所定の理由があつたとは認めがたく、仮に右に該当する理由があつて制裁(なお、同条二項によれば制裁はけん責、罷免、権利停止、除名の四種がある)の対象となるとしても、その裁量の範囲を逸脱し制裁権限を濫用したものといわざるをえず、他に除名理由の主張、疎明のない本件においては、いずれにしても無効である。

(吉崎直弥)

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